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耐震基準適合証明書は売主と買主のどちらが申請するものなのか?

中古住宅の取引では「現況有姿」という言葉が良く使われます。そのままの状態の取引ですよという意味で、何か問題があっても売主は責任を負いませんという意思表示でもあります。

(たまに売主が宅建業者の場合でも「現況有姿」と言い張る困った業者がいるのですが、売主が宅建業者の場合は最低2年の瑕疵責任があるので判断が異なります)


中古住宅は建物の価格について、新築時より大幅に値下がりしているケースが多いです。

例えば木造戸建ての場合は築20年を超えてくると、ほぼ土地値での取引になることもあります。


建物にそれほど価格が乗らないのに、責任だけ負わされるのは困るというのが売主の本音です。

中古住宅と言え安心して買いたいというのが買主の気持ちですね。

両社の思惑が交錯するので、交渉を重ね、妥協点を見出します。不動産は取引であって、決してショッピングではないのです。

「売る方がお金を貰う立場なので何でもかんでもやって当然だ」では取引は成立しません。


耐震基準適合証明書の話です。

中古住宅の住宅ローン減税で必要となる耐震基準適合証明書ですが、売主と買主のどちらが申請者なのか?という質問がありました。 発行依頼は誰でも構わないのですが、耐震基準適合証明書に記載する申請者欄は、耐震基準適合証明書が必要なタイミングによって売主が記載されるか、買主が記載されるか変わります。



国交省のホームページに耐震基準適合証明書のファイルが置いてあるので、実際に耐震基準適合証明書を見てみましょう。


耐震基準適合証明書の記入例を見ると「売主」と記載されています。

所有権移転までに耐震基準適合証明書を発行する場合の耐震基準適合証明書の申請者は売主になると理解できます。


一方、同じページに「中古住宅取得後に耐震改修工事を行う場合について」というリンクがあるので見てみると、耐震基準適合証明書仮申請書の記入例があります。


中身を見てみると、「売主」という表記はありません。


状況を少し整理してみます。

まず、住宅ローン減税には築後年数要件が定められています。非耐火住宅(木造住宅等)は20年以内、耐火住宅(マンションなど)は25年以内と定められています。

税制改正で耐震基準適合証明書があれば築後年数要件を緩和するという特例が定められました。 耐震性が確認された住宅を取得したので、築何年でも住宅ローン減税を適用しましょう、という理解です。


この制度には問題がありました。 昭和56年6月以降の所謂「新耐震」と呼ばれる時期の住宅でも、耐震診断を実施すると現行基準を満たさず、耐震改修が必要であると判定される確率が高いからです。

耐震診断は非破壊検査なので、所有権移転までに耐震診断を実施することは、売主にとってそれほど負担ではないのですが、工事となると話は別です。 所有権移転前に買主が希望するリフォームを実施することは、様々なトラブルの原因となるのであまり一般的ではありません。 ※外からの工事であればまだ良いのですが、耐震改修は室内の工事となりますので現実的ではありません。


上記のような実情を踏まえて、所有権移転後に耐震改修工事を実施して耐震基準適合証明書を取得する場合であれば、住宅ローン減税を適用させましょう、という特例が設けられました。


耐震基準適合証明書は耐震診断の結果、基準を満たすことを証明する書類なので、所有権移転前の取得の場合、所有者は売主となるので、申請者が売主となり、所有権移転後の場合は所有者が買主のため、申請者が買主となる訳です。

書類の記載ルールについては概ねこの理解で問題ないと思います。 ただ、誰が頼むべきなのか?については、書類上の記載とは別の問題なので誤解が生じやすいと思います。


耐震基準適合証明書は誰が依頼するべきなのか?もう少し具体的に言うと耐震基準適合証明書にかかる諸費用を誰が負担するべきなのか?については、誰でも良いが適切な回答だと思います。

発生するメリットを考えると買主が費用負担すべきと思われますが、耐震性が確保された住宅であることが不動産取引の条件の場合は、その証明の手段として売主が負担するべき状況も考えられます。

極論ですが、取引を円滑に進めるために仲介会社が負担するという考え方も間違いではありません。(実際フラット35適合証明は仲介会社が申請者になることができます)

大切なのは、何の目的で利用する書類で、誰が費用負担するのか、万が一発行されなかった場合はどうするのかなどを売主・買主で明確にすることだと思います。


所有権移転後の流れは比較的新しい特例なので、制度をよく理解していない不動産仲介会社が多いです。 よくあるトラブル事例をご紹介します。


1 既に所有権移転してしまったが、今から工事を行えば間に合いますか?

所有権移転前に仮申請を行っていないのでNGです。 所有権移転後の場合、「所有権移転後居住開始までに耐震改修工事を実施して耐震基準適合証明書を取得する」というのが要件なので、既に住民票を移していた場合は2重の意味でNGです。 住宅ローン減税の手続きは所有権移転までに実施しなければならないことがあります。


2 マンションだが所有権移転後の手続きで良いか?

所有権移転間際もしくは所有権移転後に問い合わせがあるパターンが多いです。 結論はNGです。 所有権移転後の場合は、耐震改修工事を行うことが要件です。マンションは戸単位で耐震改修工事が実施できないので、制度対象外となります。


3 リフォームは別の業者で考えているが、耐震基準適合証明書だけ依頼できるか?(戸建ての場合)

難しい質問ですがほぼNGです。(少なくとも弊社ではお断りしています) 耐震診断だけで基準を満たしている可能性が低く、また、リフォームの内容によっては構造部分に影響を及ぼすことも懸念されるため、普通の建築士であれば引き受けないと思います。 それだけ耐震基準適合証明書に印鑑を押すというのは重たい業務なのです。 既にリフォーム会社が決まっている場合は、そのリフォーム会社に耐震基準適合証明書を依頼するのが筋です。 また、中古住宅を購入する際のリフォームは耐震基準適合証明書が発行できる、建築士が在籍している会社を選ばないと、住宅ローン減税だけでなく、各種住宅取得支援制度が利用できなくなってしまいます。


4 リフォームは別の業者で考えているが、耐震改修工事だけ分離発注できないか?(戸建ての場合)

こちらも難しい質問ですがほぼNGです。(少なくとも弊社ではお断りしています) 施工責任の区分が曖昧になるため、1回の工事で複数の事業者が元請となる契約は推奨できません。 3と同じで、リフォームを頼みたい事業者が耐震基準適合証明書を手配するべきで、耐震基準適合証明書すら手配できないリフォーム会社を選ぶべきではありません。


5 所有権移転後に耐震診断を実施したら基準に適合していて耐震改修が不要と判断された。制度の対象となりますか?(戸建て)

所有権移転後は耐震改修工事を実施することが前提です。そもそも基準を満たす(工事が不要)のであれば、所有権移転前に手続きが可能だからです。 築20年といっても、新しいものは阪神淡路大震災後の物件も出てきます。また、2×4工法の場合はきちんと施工されたものであれば基準を満たす可能性が高いです。 住宅ローン減税を利用したい場合は、少なくとも耐震診断くらいは早めに実施しておいた方が良いと思います。

取引において不動産仲介会社が担うべき役割が重要なので、仲介会社選びが重要になることをご理解ください。

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